もう一つの著作権の話(もうひとつのちょさくけんのはなし)

1 はじめに


私は、まだ中学生または高校生である皆さんのために著作権の仕組みを解説して、 皆さんの自主的な意思のもとに著作権を尊重してもらえるように、 と考えてこの文章を書くことにしました。

皆さんにむけて書かれた著作権の話は、すでにいろいろとあるようです。しかし、 そうした話の大部分は「著作権法を守りましょう」「書籍やコンパクトディスク(CD) やビデオを勝手にコピーすると法律で罰せられます」 ということを皆さんに訴えるだけに止まっているようです。 既にしっかりとした判断力と自分の考えを持っている皆さんにとって、ただ 「法律を守りましょう」といわれるだけでは、 納得がいかない部分もあるのではないかと私は考えます。

そこで、この『もうひとつの著作権の話』では、 「なぜ私たちが著作権を尊重しなければならないのか」 という根本的な理由についていっさい手を抜かずに、 でも難しい用語や概念を使わずに説明することを目標としています。もし、 この文章を読むことで皆さんの心の中に著作権の考え方の基礎が作られれば、 一つ一つの自分の行動について自分で判断することができるようになるでしょう。

2 こまった著作権!


さて、皆さんはこれまでに一度くらいは「著作権」 という言葉を聞いたことがあると思います。読書を楽しむ人であれば、 書物の奥付けに、音楽を楽しむ人であれば、CD やMDのパッケージに、 コンピュータを使う人であれば、ソフトウェアの使用許諾書に「著作権」 という言葉が書かれています。でも、そうした皆さんのほとんどは「著作権」 について書かれた法律である「著作権法」を読んだこともないと思います。 そして要は「無断複製・無断転載・無断コピー」をしなければよいのだろう、 程度に理解しているものと思います。そして、皆さんのなかには 「そんなめんどくさいことをいちいち守っていられないよ」と考えて、 近所のコンビニエンス・ストアで本のコピーを取ったり、 お気に入りの曲をコピーしたMDを友達にプレゼントしていたりする人もいるのではな いでしょうか。

最近は情報化社会という時代に入ったとよく言われます。 この情報化社会という言葉が何を指しているのかについては実はまだはっきりとした 定義があるわけではありません [1]。 しかし、ここでは、おおよそ次のようにまとめておきましょう。

まず、情報化社会とは、私たちの欲望の対象が具体的な「物」に加えて、 形を持たない「情報」に広がった時代だということができます。皆さんは、 流行の服やバイクや化粧品が欲しいだろうと思います。その一方で、 ゲーム機やステレオやビデオなども欲しいでしょう。服やバイクや化粧品は「物」 です。ではゲーム機やステレオやビデオはどうでしょうか。「それも物でしょ?」 と考えるのが普通だと思います。

しかしながら、たとえばゲーム機の場合、 ゲームの機械だけを買ってきても意味がありませんね。 ゲーム機で再生するためのゲームを収めたCD-ROMが必要です。 ステレオを買ってきたときも同じように CDが必要ですね。 つまりゲーム機やステレオやビデオがなぜ欲しいかと考えるとき、 それらの機械そのものが欲しいのではなく、 私たちはその機械の上で利用される情報が欲しいわけです。こうした「物」 とはちがってそれ自体では形を持たない「情報」に対して私たちが欲望を抱き、 積極的に利用する時代を情報化社会ということができると思います。

次に情報化時代とは、そうした「情報」 の取り使い方が大きく進歩した時代ということができます。私たちが「情報」 に対して欲望を持つようになったのは最近のことではありません。 以前から存在する本やレコードや映画も情報を中心とした商品でした。しかし、 そうした以前から存在する情報商品は、 その情報を収めた紙の束やビニールの板やプラスチックフィルムと密接に結合してい て、そうした「物」と「情報」を分離して取り扱うことはほとんどできませんでした。 例えば、コピー機が無い時代には本を複写しようとすると、 たいていの場合は手で書き写すしかありませんでした。 本からその書いてある内容である情報を分離するためには大変な手間がかかったわけ です。

ところが、情報化時代においては、コピー機やMDやビデオデッキがあります。 それらの情報機器を用いれば、私たちは本からその内容だけを別の紙に移すことや、 音楽の情報だけをCDからMDに移すことが容易にできるわけです。もはや「物」 に収められた情報は自由に分離して移動させることができるようになりました。 さらにコンピュータを使いますと、そうして情報を取り出すだけでなく、 情報をいろいろと変形したり加工したりして、全く別の種類の「物」 に移すこともできます。たとえば、 スキャナを使いますと雑誌の内容からお気に入りのアイドルの画像だけを取り出すこ とができ、その画像に「暑中お見舞い申し上げます」とコンピュータで書き込み、 葉書に印刷したりできるということです。