もう一つのプライバシーの話(もうひとつのプライバシーのはなし)

1 はじめに


私は、 中学生または高校生である皆さんのためにプライバシー問題について解説して、 皆さんの自主的な判断と責任のもとにプライバシー問題に対処していけるように、 と考えてこの文章を書くことにしました。

もともと「プライバシーの権利」という考え方は、 イギリスやアメリカで発展してきた考え方で、 日本には近年までそうした考え方は無かった、というのが実状です。 後で詳しく説明しますように、プライバシー問題それ自体は古くからあります。 しかし、現代の私たちが直面しているプライバシー問題は、 以前のものと異なる要素を多く含んでいるため、 改めてプライバシーについて考えてみる必要が生じているわけです。 こうした理由から、 皆さんに向けて書かれた新しいプライバシー問題に関する解説はあまり無いようです。

仮にそうした解説があったとしても「プライバシーは大切ですから、尊重しましょう」 「他人のプライバシーを侵害すると、法律で罰せられます」 「自分のプライバシーを守るためには、個人情報を秘密にしましょう」 というようなことが書かれているのだと思います。 そうした解説をちょっと読んでみると、当たり前のことのように思えるでしょう。 当たり前すぎて、具体的にどうすればよいのか分からないのではないかと思います。

そこで、この『もう一つのプライバシーの話』では、 「プライバシー問題の原因は何なのか、 私たちはこの問題にどのように対処すればよいのか」 という問いに対していっさい手を抜かずに、 でも難しい用語や概念を使わずに説明することを目標としています。もし、 この文章を読むことで皆さんにプライバシー問題の本質が理解されるならば、 自分がすべき選択とその結果についての覚悟をすることができるでしょう。

2 プライバシーが大変だぁ!


さて、皆さんはこれまで一度くらいは「プライバシー」 という言葉を聞いたことがあると思います。 テレビをつけると最近ちょっと見なくなった芸能人が「プライバシーの侵害だぁ」 とか騒いでいるのを見たことがありませんか?もし、 その芸能人がとくに好きでもなければ、「ふーん」と聞き流したり、 もっと面白い番組を探してチャンネルを替えてしまったりするでしょう。でも、 もし皆さんの好きなアイドルだったら、みなさんは「なになに」 と画面に顔を近づけて詳しく放送の内容を見ようとするでしょう。

別のチャンネルを見ていたら、 あるミュージシャンのコンサートの様子が放送されていました。 カッコいいスターの周りにはたくさんの「おっかけ」と呼ばれる女の子たちがキャー、 キャーと騒いでいます。あなたは「うらやましいなぁ」と思ったかもしれません。 一度くらい、かわいい女の子に追い掛け回されてみたいな、 と思ったかもしれませんね。

次のチャンネルに替えると「ストーカー」といわれる人たちの特集をしていました。 特定の個人を執念深く付け回す人たちのことで、 他人のプライバシーを侵害する犯罪だと説明されていました。 「こんなのに狙われたら、たまらないよなぁ」と思ったでしょう。同時にあなたは 「あれ?じゃ、おっかけはストーカーとどう違うの?」と気がつくでしょう。

次のチャンネルでは、ドキュメンタリー番組で、個人情報売買の特集をしていました。 私たちの名前、住所、電話番号、生年月日などの個人情報が、 懸賞はがきやアンケートや卒業名簿などから集められ、 ダイレクトメールを送る時の情報として広く売られているというのです。 皆さんのなかには、「ええっ、気持ち悪いなぁ」と思った人がいるかも知れません。 でも、「別にいいんじゃん、名簿なんて誰だってその気になれば見ることできるし」 と思った人もいるでしょう。

また別のチャンネルに切り替えたら、 大学の先生が出てきて (どこのチャンネルかだいたい分かりますね)、 「プライバシーは大事です。これを守るためには法律が必要です。加えて、 私たち一人一人の自覚と注意深い行動が求められるのです」といっていました。 「ふーんそうなのか、プライバシーは大事なんだな」 と皆さんはなんとなく思うことでしょう。

でも「名前、住所、電話番号を他人に知らせてはいけません」といわれると、「うーん、 さすがにそれは無理なんじゃないかな。 クラス名簿でクラスの人たちの住所や電話番号ならみんな知ってるよ」 と考えるでしょう。また、法律があればプライバシーは守られるのでしょうか? いったんみんなに知られてしまった「秘密」 を法律は取り戻してくれるのでしょうか?どうやら、 プライバシーを完全に守るためには、雨戸を閉めて家に閉じこもるしかなさそうです。

3 噂好きな私たち


人間は社会的動物ともいわれます。他人に関心をもち、 他人と関わりをもつことで社会は成り立っているのですから、 私たちが他人の生活や行動について関心をもつことは私たち人間にとって当たり前だ といえるでしょう。でも、ある特定の人にどれほどの関心をもつかということは、 人それぞれに違っています。皆さんにも、気になって仕方がない人がいるでしょう? でも、クラスの中にはどこに住んでいるかさえ知らない人がたくさんいるでしょう。