クリスマス・カロル(クリスマス・キャロル)

 だが、何をそんな事スクルージが気に懸けようぞ! それこそ彼の望むところであった。人情なぞは皆遠くに退いておれと警告しながら、人生の人ごみの道筋を押し分けて進んで行くことが、スクルージに取っては通人の所謂『大好物』であった。
 ある時――日もあろうに、聖降誕祭の前夜に――老スクルージは事務所に坐っていそがしそうにしていた。寒い、霜枯れた、噛みつくような日であった。おまけに霧も多かった。彼は戸外の路地で人々がふうふう息を吐いたり、胸に手を叩きつけたり、煖くなるようにと思って敷石に足をばたばた踏みつけたりしながら、あちらこちらと往来しているのを耳にした。街の時計は方々で今し方三時を打ったばかりだのに、もうすっかり暗くなっていた。――もっとも終日明るくはなかったのだ。――隣近所の事務所の窓の中では、手にも触れられそうな鳶色をした空気の中に、赤い汚点の様に、蝋燭がはたはたと揺れながら燃えていた。霧はどんな隙間からも、鍵穴からも流れ込んで来た。そして、この路地はごくごく狭い方だのに、向う側の家並はただぼんやり幻影の様に見えたほど、戸外は霧が濃密であった。どんよりした雲が垂れ下がって来て、何から何まで蔽い隠して行くのを見ると、自然がつい近所に住んでいて、素敵もない大きな烟の雲を吐き出しているんだと考える人があるかも知れない。
 スクルージの事務所の戸は、大桶のような、向うの陰気な小部屋で、沢山の手紙を写している書記を見張るために開け放しになっていた。スクルージはほんのちっとばかりの火を持っていた。が、書記の火はもっともっとちょっぽりで、一片の石炭かと見える位であった。でも、彼は、スクルージが石炭箱を始終自分の部屋にしまって置いたので、それを継ぎ足す訳に行かなかった。書記が十能をもって這入って行くたんびに、きっと御主人様は、どうしても君と僕とは別れなくちゃなるまいねと予言したものだ。それが為に、書記は首に白い襟巻を巻きつけて、蝋燭で煖まろうとして見た。が、元々想像力の強い人間ではなかったので、こんな骨折りをして見ても甲斐はなかった。
「聖降誕祭でお目出とう、伯父さん!」と、一つの快活な声が叫んだ。これはスクルージの甥の声であった。彼は大急ぎで不意にスクルージの許へやって来たので、スクルージはこの声で始めて彼が来たことに気が附いた位であった。
「何を、馬鹿々々しい!」とスクルージは言った。
 彼は霧と霜の中を駆け出して来たので、身体が煖まって、どっからどこまで真赤になっていた。スクルージのこの甥がですよ。顔は赤く美しく、眼は輝いて、ほうほうと白い息を吐いていた。
「聖降誕祭が馬鹿々々しいんですって、伯父さん!」と、スクルージの甥は云った。「まさかそう云う積りじゃないでしょうねえ?」
「そういう積りだよ」とスクルージは云った。「聖降誕祭お目出とうだって! お前が目出たがる権利がどこにある? 目出たがる理由がどこにあるんだよ? 貧乏しきっている癖に。」[#「。」」は底本では「」。」]
「さあ、それじゃ」と甥は快活に言葉を返した。「貴方が陰気臭くしていらっしゃる権利がどこにあるんです? 機嫌を悪くしていらっしゃる理由がどこにあるのですよ? 立派な金持ちの癖に。」[#「。」」は底本では「」。」]
 スクルージは早速に巧い返事も出来かねたから、また「何を!」と云った。そして、その後から「馬鹿々々しい」と附け足した。
「伯父さん、そうぷりぷりしなさんな」と、甥は云った。
「ぷりぷりせずにいられるかい」と、伯父は云い返した、「こんな馬鹿者どもの世の中にいては。聖降誕祭お目出とうだって! 聖降誕祭お目出とうがちゃんちゃら可笑しいわい! お前にとっちゃ聖降誕祭の時は一体何だ! 金子もないのに勘定書を払う時じゃないか。一つ余計に年を取りながら、一つだって余計に金持にはなれない時じゃないか。お前の帳面の決算をして、その中のどの口座を見ても丸一年の間ずっと損にばかりなっていることを知る時じゃないか。俺の思う通りにすることが出来れば」と、スクルージは憤然として云った、「聖降誕祭お目出とうなどと云って廻っている鈍児どじどもはどいつもこいつもそいつのプディングの中へ一緒に煮込んで、心臓にひいらぎの棒を突き通して、地面に埋めてやるんだよ。是非そうしてやるとも!」
「伯父さん!」と甥は抗弁した。
「甥よ!」と、伯父は厳格に言葉を返した。「お前はお前の流儀で聖降誕祭を祝え、俺はまた俺の流儀で祝わせて貰おうよ。」
「祝うんですって!」と、スクルージの甥は相手の言葉を繰り返した。「だが、ちっとも祝っていないじゃありませんか。」
「では、俺にはそんな物打遣うっちゃらかして置かせて貰おうよ」とスクルージは云った。「聖降誕祭は大層お前の役に立つだろうよ! これまでも大層お前の役に立ったからねえ!」