日記(にっき)


一、まわり舞台の一般的利用、
М・Х・А・Тの「復活」、全然日本のかえし。
メイエルホリド「バーニャ」或幅だけ円形線をとってそれをまわす。
上から見るとメイエルホリド「バーニャ」のまわり舞台の上から見た図
 革命座「パルトビレト」のは更に小規模な部分的作業で
 この壁がせり出して来て右へぐるりとまわると、かげからカルチーナ〔絵〕が出て来る。
革命座「パルトビレト」の一シーンの図

 問題
 つり上り、(ワフタンゴフの例もある)まわりその他 дом печать〔出版の家〕でもやったがこういうセットの動かしかたと本当のメカニズムとの問題。自分は今ソヴェト劇のこの点に疑問がある。例えばメイエルホリドの「ウェリコドゥーシュヌイ・ラゴノーシェッツ」〔「寛大なコキュ」〕の風車はよく分る、がワフタンゴフの立ってるテーブルの意味がわかるか?
 主題――テーマ――

一九二九年十二月二十九日

 メイエルホリド劇場〔入場券、配役表貼付〕
「森」
検察官レビゾール」はメイエルホリドのもって居る病的なところ、デカダンなところ、濃厚さと全的に披瀝したものだ。
「森」は云わば話し上手が、活々と、単純にノンセンスな、ユーモアと一種のリリシズムをもって女地主の家に起った話をして居るようだ。色彩がある、例えば月夜スチャストリーヴェツ〔仕合せ者〕(丸まっちくって極めてロシア式ルンペンである)と、花束をもって、まるで陶器人形みたいな紫花模様の服をつけた家政婦のウリタが「上ったり下ったり」にのっかって遊んで、幸福者がふわふわ裾のウリタを宙のりさせるところ。
 ガルモシュカ[#アコーデオン]をペートルが弾いて、感情を現し、若い二人が高揚した心持で庭のグルグル廻りにのってまわり、又ガルモシュカを弾く。非常に素朴で居て、まるで誇張はなく流露的な恋愛場面。
グルグル廻りの図
 音(=リズム)・運動のうまい動的な結びつけかた。例えば多くの音楽はただリリシズムの役にだけ立って、このように極めて内在的な感情リズムの表現には、これまでつかわれて居ない。
 不幸な男が若い二人に同情して、よくばりの商人(恋人ペーチャの親爺)をバンバンいきなりトタンのなまこ板をふりまわしておどしつけ、とり上げた金を、おば・女地主にやったのを、又おばをおどしつけ(それのピストルのつかいかたが又極めて無邪気で、ノンセンスだ)金をとりあげて二人を一緒にしてやる。
 最後の場面、ガルモシュカの音につれて若い二人が静かにこの高い橋=人生の橋をのぼって去るところで幕になる。なかなかよい。
人生の橋の図

 ○これを見ると、メイエルホリドが決してレビゾールにあるような気の遠くなるような、肉感だけしか理解しない人間ではないことが分る。この恋愛の場面の単純な美しい健康なあつかいかたは、実にリズミカルで、集約的で、滅多にないよきラヴシーンと思った。ここ忘れがたい。舌づつみをうつような味だ。
 これと、又、ウェリコドーシュヌイ・ラゴーシェッツにある妙に野生な、ブルータリズムみたいなもの。

一九三〇年一月二十日

 ワフタンゴフ劇場〔入場券、配役表貼付〕
「カ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ールストヴ〔たくみ〕と恋」
 ワフタンゴフはいつも一つの癖をもって居る。(ポポーフという男のくせだ)それは奇麗ずきで、目先をかえたがってこせつくことだ。このシルレルの上演も部分的にはいいところがあるのにいやにセットを、ヨーロッパ・ハイカラにしようとして、変なメシチャンストヴォ〔小市民性〕に堕して居る。つまり銀ぴか、赤、立派、オモチャそういうところ、丁度版画で云うとドブジンスキーの夜の王子の插画みたいなところがあるのだ。聖ペテルブルグ気分、甘いロマンティック趣味がのこって居るのだ。
 始め、銀キラキラの真中に老コンダクターを出して一寸びっくりさせ、おわりに死んだ二人の若者を並べて又コンダクトするところなどいいメロドラマだ。
 シルレルは権謀が無意味に二つの命をおとさせたという正義観でギリシア悲劇的にあつかって居る。ワフタンゴフは貴族=貧しき音楽家というところに階級性を出したのだが、これは失敗だ。
一、ワフタンゴフとカーメルヌイ劇場とは現代のソヴェート劇壇で或傍道を歩きつつある二つの存在だ。=カーメルヌイも、ワフタンゴフも、メイエルホリドでもなし、МХАТでもなし、М、ГСПСでもないところにある美を捕えようとしてやって居る。カーメルヌイは、例えばバクローヴィ・オーストロフのような軽い未来派タッチのあるオペレット、レビュー的のもので、ワフタンゴフはそれより重い、舒情、というようなところを狙って居るのだ。つまり建築的美を舞台の上にもつ現代の傾向と違った美=絵画的印象=そういうものを例えば騎士道と恋で捕えようとして居るが、それが困ることに一九〇七、八年どまりのハイカラーさなのだ。

二月二十五日

 メイエルホリド劇場〔入場券、配役表貼付〕