其中日記(ごちゅうにっき)

五月十九日

 晴。

さらりと朝湯によごれを流して。――
自分のうちのしたしさ、そしてむさくるしさ、わびしさ。
日本晴、めつきり夏めいた。
今日はアルコールなし!

五月廿日

 晴、風、そして曇。

暑い、暑い、汗、汗、友、友、酒、酒。

五月廿一日

 晴れたり曇つたり。

初夏の朝のさわやかなるかな。
こゝもタバコキキンである。
Fさん来訪、あたりさわりのない四方山話。

五月廿二日

 曇。

しづかに生きてしづかに死にたい
棕梠の花咲く、私の部屋の樹木としてはその木が一本あるだけ。
胡瓜一つ五銭だつた。
私はこのごろからことにふさいだりいら/\したりする、マヽ柑の花が匂ひ螢が飛びかふころは。――
山口まで散歩。
Yさん来訪、Hさんも、そしてほろ/\にしてもらつた!
夜明ちかく、ほとゝぎすが啼いた、一声、二声。

五月廿三日

 曇。

五月廿四日

 おなじく。

去々来々、来々去々。

五月廿七日

 曇。

自粛自戒、鞭は自分で持て
林芙美子女史の北岸部隊を読みて感動す。
三日ぶりに入浴して御飯を炊く。
Yさん来居、ありがたう。

五月廿八日

 晴曇。

重苦しい日であり夜であつた。


この間ブランク、それは渾沌とでもいふより外はなかつた。
“自省録”

“秋葉小路の人人”
  (身辺雑記風に)

  旧作二首
一杯の茶のあたゝかさ身にしみて
  こゝろすなほに子を抱いて寝る
   噫、マヽき弟よ
今はたゞ死ぬるばかりと手をあはせ
  山のみどりに見入りたりけむ

六月十日

 曇。“時の記念日”

徹夜だつた。――
身心すこし落ちつく、温泉はありがたいかな。
夕方、白船君来訪、君は変らない人、よき子、よき夫、よき父、よき祖父、そしてよき友、よき社会人であるとしみ/″\感じ入つた、うれしい来訪であつたが、気の毒な来訪でもあつた、すみませんでした、あしからず。
つゞいて千冬君来訪、白船君を送りだしてから、同道して山口へ出かける、Kで飲んだ、Yさんも来てくれた、酔うて夜更けて夢中で戻つて寝た。

六月十一日

 晴曇。

六月十二日

 梅雨入。

       梅雨らしく降れ。

やつぱりほんたうに落ちつけない、怏々として起きたり寝たり、悩ましい朝々夜々であつた。
とても愉快な一夜であつた。――

六月十六日

 晴。

七時のバスで、澄太君は西へ出発した、名残が惜しい、バスの見えなくなるまで見送る、……それから私は飲んだ、しやべつた、歩いた、酔つぱらつた。……
夜、Yさん来訪、Yへまで出かけて、また飲んだが、よい飲み方だつた。

六月十七日

 晴。

空梅雨らしく、なか/\降りださない。
身心おちついてこゝろよし。
Yさんと坊ちやんといつしよに湯にはいる。
晩酌、ほどよい酒であつた。
亡弟二郎を想ふ、彼は正直すぎて、そしてあまりに多感だつた、彼の最後は彼の宿命だつた、あゝ。

六月十八日

 晴。

明けるのを待ちかねて起きる。
朝湯、散歩、薊を折つて帰る。
Fさん来訪。
世の中はむつかしい、うるさいなあと思ふ。
散歩が安全第一、何よりもよい。
死を考へる、母、姉、祖母、父、弟、……そして妻を子を考へる。……

六月十九日

 晴。

早起。
近隣に対して、――父よ母よ、そんなに子を叱るなかれ。
身のまはりをかたづける、旅立つ前の用意として。
誰もさびしいのだ、みんな寂しき人々なのだとも時々は思はせられるが。――

六月廿日

 晴――曇。

八大龍王よ、雨降らしめたまへ。
どくだみの花はわるくない、入浴のかへりにはいつも摘んで来て、活けて楽しむのである。
昨日今日は古いゴム長靴を売つてさゝへたが!
死身の捨身だ
駅に遺骨を迎へて涙をあらたにした。
天地人有情非情に合掌する
夜は前の涼台に腰かけて、たれかれと世間話する、これも折々は面白い。
燃ゆる太陽、燃ゆる人間。

六月廿一日

 曇。

雨がほしいほしいといふ声ばかり聞える。
自粛自戒自重の事。
やつと雨になるらしかつたが、降るといふほど降らない。
米がなくなつた、銭はもとより。
今日は旧の端午だといふのに、――腹は空つても食べる物がない、水ばかりがぶ/\飲む。
Nさんに逢ふ、或る家で飲む、よかつた/\。

六月廿二日

 雨、よい雨。

ほどよい酔心地、銭を少々借ることが出来たのである。
ほどよく食べて、ぶら/\歩く。
何よりも米、そして酒である、私のやうな酒好にも。
酒は慎むべし、酒を慎めない私はしよつちゆう自分にかくいひきかせてゐるけれど、いつもだめになる。
酒は悪魔か酒は菩薩か酒は酒であるそして時として悪魔時として菩薩私次第で。……

六月廿三日

 曇――雨。