三国志(さんごくし)

「曹操の勢は、遠路を来て、戦いつづけ、まだ配備もととのわず、冬を迎えて陣屋の設けもできていません。今、直ちに逆寄さかよせをなし給えば、いつをもって労を撃つで――必ず大捷たいしょうを博すだろうと思います」
 呂布は首を振った。
「そううまくは行くまい。敗軍のあげくだから、まだ此方の将士こそ士気が揚っていない。彼の来り攻めるを待って、一度に突いて出れば、曹軍の大半は泗水しすいに溺れてしまうだろう」
「は。……そうですか」
 陳宮も近頃は、彼に対する情熱を持ちきれないふうである。抗弁もせず嘲笑あざわらって引き退がった。
 とこうするまに、早くも曹操は山東の境をやくし、また当然※(「丕+おおざと」、第3水準1-92-64)かひへ押しよせて、城下を大兵で取固めた。
 そして二日余りは矢戦に送っていたが、やがて曹操自身、わずか二十騎ほどを従えて、何思ったか、泗水のきわまで駒を出して、
「呂布に会わん」
 と、城中へ呼びかけた。