中村仲蔵(なかむらなかぞう)

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中村仲蔵(未映画化)
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原作並脚色 山中貞雄



[#改ページ]
 =(F・I)道
 鏝不付の半次が徳利持って一散に走って居る。
 (移動)
 (ヘッド・タイトルを道の移動にダブらしたらどうかと思います)
(速やかにF・O)

 =(F・I)松平帯刀の邸
 一人の旗本、斬られてダダーとのけ反った。
 入れ替りに一人がサッと斬り込む。
 斬り込んで来た奴を横薙ぎにして左刄高く振り上げた此村大吉、大見得切った形。
 殺陣開始――
 遂に大吉、帯刀を斬り倒す。
 其処へ半次が漸く駈け付けて来た。「ようよう死んでるぞ、死んでるぞ」と数多い死体を見て大喜び。
 大吉、ホッと一息付いた所へ半次も来て「旦那、酒だ!」と大吉に酒を渡し、
 「サテ、おきよさんは?」と、ある部屋の襖を開くと、
 縛られて居るおきよの後姿。
 半次、急ぎ彼女の許へ駈け寄って縄を解く。
 大吉は、悠々徳利のガブ呑み。
(静かにダブって)

T「そんな訳で
 とうとう鬼神組を
 皆殺しにして
 了ったんです」

 =江戸の町
 話して居るのは鏝不付の半次。
 ブラブラ歩き乍ら聞いて居るのが行安寺の五郎蔵親分です。
 半次歩き乍ら尚もベラベラ、
T「右腕の傷も、案外、軽く
 想う女を手に入れて
 天晴れ男ッ振りを
 上げたまでは
 まあいいんですがね」
 と半次が言えば、五郎蔵が「それから?」
 半次「ササ」
T「それからが
 なっちゃ居ないんです」
 「悪い事が続いたんです、先ず第一に」と半次。
T「大勢を手に掛けたとあって、
 錦糸堀五百石の御邸は
 御取り潰しになり……」
 「とうとう浪人生活」と云えば、五郎蔵「そりゃそうだろう」半次尚も、
T「その上、
 そのおきよって女が
 見掛けによらんあばずれでしてね」
 と話し続ける半次。
T「旦那に金がないと
 知ると、急に
 手の掌かえして
 水臭くなりやがって、
 果は情夫と手に手を
 とってドロン……」
(次の画面へダブル)
 =大吉の浪宅
 (前の字幕からダブって)
 遺されたおきよの書置き手に呆然自失、ドッカと座敷に坐った儘の大吉、
 やる瀬なくその手紙胸に抱いて、
T「おきよ!」
 悲痛な叫びです。フラフラと立ち上って、足許定まらず壁に凭れて項垂れる。
 室の隅っこに淋しく残された鏡台、とり散らかされた化粧道具、
(それが静かにダブッて)
 鏡台の辺りに転がって居る一升徳利、もう一つコロコロ転がって来て二つコツンと衝突しました。
 机に凭れた大吉(数日後の事です)酒呑むのも嫌だと云った形。
T「淋しいな」
 側の半次が相槌打った「淋しゅうござんしょうね」
T「今更、鬼神組と
 喧嘩した、あの頃が
 懐かしい」
 泌々と独り言云う大吉。
T「あの時、皆斬らずに
 せめて半分位
 残しときゃよかった」
 「惜しい事したわい」と半次に向って、
 大吉
T「何処かに
 喧嘩相手は
 ないかなァ」
 「さァね」と半次の困った顔、大吉の淋しい顔――
(ダブって)
T「その後は、自棄ヤケになって
 誰彼れの差別なしに
 片ッ端から、世間相手に
 安兵衛もどきの喧嘩商売」

 =元に戻って――
  歩き乍ら話す半次「落ち振れ果てたあげ句が……
T「とうとう
 今じゃ……」
 聞き手の五郎蔵親分がその後引き受けて、
T「此の五郎蔵の
 用心棒か」
 半次の苦笑。
 二人が、とある町角まで来た時、五郎蔵が此の筋を曲ろうと言い出した。半次が「親方帰るんじゃないんですかい?」五郎蔵笑って「一服して帰ろう」と先になって角を曲る。

 =茶店
 四ッ谷見附のお光の茶店。二三人休息して居る。茶店の女が三人ばかり(其の中にお光も居る)。
 道行く人を呼んで居る。
 と、中の一人が彼方見て「まァ親分が」
 と云えば他の二人も出て来て三人揃って「親分お久し振り」
 半次を伴った五郎蔵の親分然たるところ。
 縁台に腰下ろすと女共いそいそと茶なぞ運んで来る。
 半次がソッと五郎蔵に囁く、
T「もてますね」
 「いや、其れ程でもない」顔の相を崩して得意がる五郎蔵の助平面がジロリと横目で睨んだ。長い事見つめた儘。
 可憐なお光の姿。
 半次「ハハン」と五郎蔵の顔色読んだ。
 「親分一寸
T「いい女ですな」
 と、云われて「ウーン」見惚れて居る五郎蔵。
 半次が笑い乍ら「親分
T「マイってるんでしょう?」
 図星指された五郎蔵親分慌ててお光を見ていた眼を外して「いやなーに」とさりげなく言ってのけたが、半次、尚も「嘘ばっかし」
 遂に五郎蔵が「実はな半次
T「俺の方は
 別に何とも……」
 思っちゃ居ねえんだけれど……」と云って、へへへ、と嫌な笑い浮べた。自惚れ笑いッて奴。
T「女の方が、どうやら