パノラマ島綺譚(パノラマとうきだん)

 その時、北見小五郎は、くらめく様な五色の光の下で、ふと数人の裸女の顔に、或は肩に、紅色の飛沫ひまつを見たのです。最初は湯気のしずくに花火の色が映ったのかと、そのまま見すごしていたのですが、やがて、紅の飛沫は益々はげしく降りそそぎ、彼自身の額や頬にも、異様の暖かなしたたりを感じて、それを手にうつして見れば、まがう方なき紅のしずく、人の血潮に相違ないのでした。そして、彼の目の前の湯の表に、フワフワと漂うものを、よく見れば、それは無慙むざんに引き裂かれた人間の手首が、いつのまにかそこへ降っていたのです。
 北見小五郎は、その様な血腥ちなまぐさい光景の中で、不思議に騒がぬ裸女達をいぶかりながら、彼も又そのまま動くでもなく、池のくろにじっと頭をもたせて、ぼんやりと、彼の胸のあたりに漂っている、生々しい手首の花を開いた真赤な切口に見入りました。
 か様にして、人見廣介の五体は、花火と共に、粉微塵こなみじんにくだけ、彼の創造したパノラマ国の、各々の景色の隅々までも、血液と肉塊の雨となって、降りそそいだのでありました。