ちょびひげサミュエルのはなし(ちょびひげサミュエルのはなし)

「おかしいな。」と ねこぬこタム。「だれが こんな えんとつのなかで 骨を しゃぶるんだろ? 来るんじゃなかった! ん、 すごく おかしな においが! ネズミみたいな ―― ひどく きついっ。 くしゃみ 出そう。」と ねこぬこタム。

挿絵28
 石かべの すきまに からだを むりくり おしこんで、 きゅうくつで せまいのに ろくに 明かりも ないような すじを もぞもぞ すすんでいきます。

挿絵29
 数メートルほど 気をつけて さぐりさぐり 先を 行くのですが、 このとき いたのは じつは 屋根うら部屋の すそ板の うらがわあたり。(絵の *じるしの ところ。)
 すると まっくらがりで いきなり まっさかさまに 穴へ おっこちて、 ばっちい ぬのきれの 山へ どすん。

挿絵30
 おき上がった ねこぬこタムが あたりを 見回すと ―― 気づけば いたのは 見たことも ないところ、 ずっと このおうちで くらしてきたと いうのに。
 そこは せまくるしく かびくさく いきづまる 部屋で、 板や たる木が むきだし クモのす しっくいなんかが あちこちに。
 そして まっ正面に ―― むこうの すみに ―― いたのが 大きな イエネズミ。

挿絵31
「どういう つもりだ、 おれの ねどこに ススまみれで おっこちてきやがって。」と 歯を かちかち いわせる イエネズミ。
「その、 えんとつの お手入れが されてなくて。」と 言いわけする かわいそうな ねこぬこタム。

挿絵32
「アナ=マライア! アナ=マライア!」と ちゅうちゅう イエネズミ。 ぱたぱた 足音のあと おばさんネズミが たる木の すきまから 顔を つきだしてきます。
 さささっと ねこぬこタムに かけよって 何が何だか わからないうちに ――

挿絵33
 みぐるみ はがされ まるめられて、 ひもで ぎゅうぎゅう ぐるぐるまきに しばられて。
 しばっているのが アナ=マライア。 おじさんネズミは たばこを かぎながら それを 見まもっているだけ。 しばりおわると 2ひきは すわって 口を 大きく あけながら じっと にらんでくるのです。

挿絵34
「アナ=マライア、」と 声を かける おじさんネズミ(お名前は ちょびひげサミュエル)――「アナ=マライア、 ごちそうとして ネコを まるごと ねりこんだ まきまきパンを 作っておくれ。」
「パンだねと バター少々 それに のしぼうが いるさね。」と 首を かしげながら アナ=マライアは ねこぬこタムを どうしてやろうかと ひとしあん。

挿絵35
「うんにゃ。」と ちょびひげサミュエル、「ちゃんと 作るにゃ パン粉もな。」
「バカらし! バターと パンだねで じゅうぶん。」と かえす アナ=マライア。
 2ひきの ネズミは 数分間 話し合いを してから 動き出しました。

挿絵36
 ちょびひげサミュエルは かべ板の すきまを ぬけて、 あろうことか 正面かいだんを 下りて 牛乳おきばまで バターを 取ってきます。 だれにも 合わずに。
 そして のしぼうを 取りに もう1ど。 手で 前へ ごろごろと、 ビールしょく人が たるを ころがすように 運ぶのです。
 このネズミにも リービや タビサの おしゃべりが 耳に 入りましたが、 ふたりは ロウソク片手に いしょう箱を 見るので いっぱいいっぱい。
 はち合わせも なし。

挿絵37
 すそ板や よろい戸を 通って 下へ おりた アナ=マライアは パンだねを くすねます。

挿絵38
 小皿を はいしゃくして ちいさな 手で パンだねを すくいました。
 モペットのことには 気づかずに。

挿絵39
 屋根うら部屋の ゆか下に 転がされたままの ねこぬこタムは のたうちながら みゃあみゃあ 助けを よぼうとしました。
 けれども 口は ススと クモのすに まみれて、 きつく しばられても いるので、 だれにも 声は とどきません。
 と思いきや クモが 天井の さけめから 出てきて 高見の 見物、 むすび目を ねぶみするように たしかめます。
 そのクモも あわれ アオバエを 日々 しばってましたから かなり もつれからんでいると わかりました。 助けの手を さしだすことは ありません。
 ねこぬこタムは みを よじって なきわめいたものの、 とうとう くたびれはててしまいます。

挿絵40
 まもなく ひきかえしてくる ネズミたち、 ネコを ねりこみに かかりました。 まず バターを ぬりつけ、 それから パンだねを まきつけます。
「ひもは おなかで こなれんのじゃないか、 アナ=マライア?」と たずねる ちょびひげサミュエル。

挿絵41
 アナ=マライアは そんなの 大したこと ないと あしらって 生地が くずれては こまると ねこぬこタムの 頭を おさえに かかりました。 両耳を ひっつかみます。